ブライダル音響のプロが教える演出効果のテクニック

披露宴・二次会などで、プロが実践している、音楽の演出効果を解説してみましょう。
皆さんは、披露宴などに出席した時、思わず感動してしまったり、涙してしまった事はないでしょうか?
皆さんの、心を動かしてしまったもの。
その正体の一つが、音響効果の力なのです。
今回はシーン別に、プロのオペレーターが心がけているテクニックを解説していきます。

迎賓

~気付かれず尚且つゲストの心を誘導する装置~

披露宴会場がオープンして、チャペルでの挙式の感動も冷めやらぬまま、ゲストの皆様が会場内に案内され入ってこられます。
これからどんなパーティーが始まるのか、期待感に胸を膨らませながら、席札に書かれた新郎新婦様からのメッセージに目を通されています。
このシーンでのBGMの役割は、挙式から披露宴への場面転換にあります。
この時、音楽はあくまで裏方に徹します、目立ってはいけません。
披露宴会場の空間作りの役割です。
挙式でのゲストの緊張感をほぐしつつ、入場に向けて期待値を上げていきます。
ゲストが会場に揃うに従い、徐々に、しかし気付かれないように、BGMのボリュームを上げて、会場の一体感を演出します。
この後の披露宴で、ゲストを特別の時間に誘います。
ここではその準備を整えるに止め、ただじっとその時を待ちます。
披露宴開宴への準備は整いました。

入場

~音楽が新郎新婦をスターに仕立て上げる~

会場の期待値が高まってきた時、いよいよ披露宴がスタートします。
ドレスチェンジをされた新郎新婦様が、初めてゲストの前に現れる瞬間です。
迎賓中に流れていたBGMが、おもむろにフェードアウトしていきます。
披露宴会場は一瞬の静寂に包まれ、司会者からのコメント「新郎新婦の準備が整ったようです、皆様、扉口にご注目ください」
ゲストの皆様が、カメラや携帯電話を手に入場扉に注目されます。
そこで司会者のキメの一言「新郎新婦の入場です!
今まで裏方だった音楽が、この時ばかりは主役になり、入場曲が大音量で流れ始めます。
扉が開くタイミングにご指定がなければ、30秒ほど引っ張ります。
長すぎても短すぎてもいけません。
期待感を演出し、なおかつダレてしまわない程度。
そうする事で、会場の期待感はさらに高まり、扉が開いた瞬間の感動はより大きなものになります。
扉が開くタイミングは「歌の出だし」や「ドラムの入る瞬間」です。
入場曲に使われる楽曲の、ツボをつかみましょう。
イントロから、さらに盛り上がるタイミングにリンクしたかのように、開かれる扉。
新郎新婦様が姿を現し一礼された時、BGMのボリュームをさらに上げ、会場の感動をピークに誘導します。
つい数分前に会っていたはずの二人が、ずっと前から皆が待ち望んでいた、ヒーロー・ヒロインに変わります。
そして、ラウンド。
ゲストの祝福の中、会場内を練り歩きメインテーブルへ。
BGMのボリュームも一旦下げ、次の盛り上がりに備えます。
この時、ゲストの皆様にとって、そこに居るのはいつもの友人・部下・先輩では有りません。
世界で一番輝いている、スターなのです。
メインテーブルに到着、そして改めて一礼です。
入場の最後の山場、ボリュームを再度上げ入場シーンのラストに向かいます。
この時、曲のサビが来くるのがベストです。
BGM側でタイミングを合わせるのは至難の業ですが、事前にサビまでの時間を確認したり、曲を聴き込んでおき、会場スタッフと、打ち合わせをしておくのも良いかも知れません。
このタイミングが合った時の達成感は、音響オペレーターとして格別なものがあります。
着席に合わせフェードアウトしていきます。
腰を下ろされた瞬間に、音量が0に成る事を狙います。
重要なのは消え際です。
曲の区切り「サビ終わり」「間奏終わり」などを意識します。
会場は入場の感動の余韻に包まれます。

新郎新婦紹介

~作業を意識させない音響効果~

披露宴が始まり、お二人の生い立ちを司会者が紹介します。
ご両親は小さい頃の二人を思い返し、友人は楽しかった学生時代に想いを馳せ、会社の同僚は初めて聞く二人の出会いのエピソードに微笑ましく耳を傾けます。
この時、音響としての主役は司会者の言葉です。
BGMは空気作りに徹します。
選曲はなるべく情報量の少ないもの、オルゴールやインストのものを使います。
しかし、演出効果である事の意識を怠ってはいけません。
このタイミングで、乾杯の準備が進められて行きます。
乾杯への序章の役割も果たしているのです。
乾杯酒がグラスに注がれ、ゲストの皆様は披露宴の開宴をイメージする事でしょう。
ですが、準備はあくまでも準備です。
露骨に準備であることを意識させない、これも音響効果の役割です。
紹介が結びに近づき、司会者から「お二人の末長いお幸せをお祈りし、お二人の紹介を結びとさせて頂きます」と、締めコメントになったあたりで、不自然にならないように、じわじわとボリュームを上げていきます。
気持ちが高まっていきます。
「幸せいっぱいのお二人に盛大な拍手を!」
ここで、ゲストの皆様の拍手に合わせボリュームをさらに上げます。
高まった感情が、溢れるように、文字通り盛大な拍手が会場を包むのです。
この時、ゲストの皆様の意識からは乾杯の準備をされていた事など、どこかへ消えていることでしょう。

乾杯

~緊張のエネルギーを解放させるプロセス~

いよいよ宴のスタートです。
乾杯挨拶のご主賓が、メインテーブル横へ進まれます。
緊張感が会場全体に伝わってきます。
この時の音響は無音です。
この静寂も大切な音響テクニックです。
ある一定の事に注目させるには無音を使うのです。
例えば電車の車内アナウンス、「次は~◯◯~◯◯~」と流れるアレです。
皆さんは、「次は~………◯◯~◯◯~」と、変な「間」を感じたことはないでしょうか?
その無音がある事で人は違和感を感じ、駅名、つまり次に発せられる言葉に耳を傾けます。
乾杯の前、スピーチで無音を作るのは、スピーチの内容に注目させるためです。
そして、無音の効果のもう一つが、緊張のエネルギーをためる事にあります。
この時ばかりは、スピーチをされる方には申し訳ないですが、思いっきり緊張して頂きましょう。
スピーチも終わりにさしかかり、司会者が、緊張しているご主賓にすかさずフォローを入れます。
「皆様ご起立頂きまして、お手元のグラスをお取りください」
その流暢なアナウンスは、より一層、緊張感を煽ります。
そしてご主賓からのご発声、「皆さんご唱和願います、新郎新婦の末長いお幸せと、ここにお集まりの皆様のご多幸を祈念いたしまして…カンパーイ!」

ゲストからの声「カンパーイ!」
すかさずBGMが鳴り響きます。

インパクトの強い明るい曲が、サビでスタンバイされ曲のピークから流れれば、それまで会場を包んでいた緊張のエネルギーが一気に解放されます。
和やかなひととき、ゲストの顔が笑顔に変わります。
会場の空気はセレモニーからパーティーへと変わるのです。

ケーキ入刀

~ゲストの気持ちを代弁する~

和やかな空気の中、前半の一番の見せ場であるケーキ入刀のセレモニーです。
このシーンに会場のボルテージをピークに持って来れれば、音響としての使命の一つが果たされます。
会場や宴にもよりますが、ケーキが会場に運び込まれる場合があります。
ここで盛り上げてしまっては、その後のメインイベントが台無しです。
ここはグッと我慢で乗り切ります。
最高の音響効果を狙うには「ギャップ」落差が必要なのです。
入刀までは指定されている曲を頭から、静かに、しかし場面転換を意識させる程度に流します。
イメージとしては「そこに音楽を置く」感覚です。
新郎新婦様がケーキの前へ誘導され、否が応でも期待値は高まります。
そして司会者からケーキ入刀のコメント。

「ケーキご入刀です!」

今まで流れていた曲がフェードアウトされ、ほんの一瞬の無音、ゲストの意識が下されるナイフの刃先に注がれた瞬間、同じ曲のサビ、一番印象的な旋律が大音量で流れます。

ケーキにナイフが入るタイミングと、サビが流れるタイミングがバッチリ合えば、最高の音響が出来たと自慢して構いません。

一斉にたかれるフラッシュ、ゲストはカメラに夢中でまだ拍手は起こりません。
少し遅れて割れんばかりの拍手。
この「間」を補うのも音響の役割なのです。
言わばゲストの感情を代わりに表現しているのです。
続けてファーストバイト、お互いへの食べさせ合いです。
スプーンでまずは新郎様から新婦様へ、会場のボルテージは保たれています。
各々ゲストから「もっと!」だの「少ない!」だの声援が飛び交います。
そして新婦様の口へ運ばれます。
「ア~ン」決定的瞬間です。
ここではサビ出しのテクニックは使ってはいけません。
ボリュームアップで十分です。
サビを使いたくなる気持ちはわかります。
ですがピークはあくまで入刀の瞬間です。
その印象を大切にする為に、同じ曲のサビは一度きりにしておきます。
次は新婦様から新郎様へ、ゲストから「まだいけるだろ!」だの「え~新婦やさしすぎ!」だの今度は冷やかしです。
スプーンに大量に盛られたケーキを半ば強引に新郎様の口元へ。
「ア~ン」今回は一筋縄には行きません。
新郎様の口元から溢れるケーキに、会場も盛り上がります。
音響はボリュームアップで答えますが、諦めかける新郎様に少し意地悪をしてみます。
音量はそのまま、下げません。
ゲストもその音楽に乗せられて「まだまだ!」「いける!」と新郎様を煽ります。
会場を笑いが包み、幸せそうな新郎新婦様を祝福せざるを得ないことでしょう。
新婚生活を垣間見せる、素敵な演出が完成します。

新郎新婦中座

~時空をも変化させるタイムマシン~

披露宴、前半もクライマックスに差し掛かります。
新郎新婦様はお色直し(衣装チェンジ)の為、一旦会場を後にされます。
この演出は、新郎新婦様によって意味合いは様々です。
新郎新婦様がお二人揃って、退場される場合もありますが、多くの場合は「新婦様中座」の後「新郎様中座」という流れになります。
その場合「エスコーター」と呼ばれる、付添人をお選びになられることでしょう。
誰を選ぶかによって、その意味合いは大きく変わってくるのです。
甥っ子様や姪っ子様など、会場の子供達を選ばれる場合、新郎新婦様をディズニーの主人公のように見せる演出が効果絶大です。
BGMはあくまでお子様に合わせます。
音響はおとぎ話の中のような空間作りに徹します。
ご友人を選ばれる場合、新郎新婦をその時代に返してあげましょう、サークルで共に戦った瞬間に、不安や喜びを分かち合った時に、思い出の曲が流れれば一瞬であの時代が蘇ります。
親御様を選ばれる場合、この時ばかりは親子の時間を演出します。

✔子から親へは、言葉では伝えきれない感謝の思いを。
✔親から子へは、立派に育った我が子への喜びを。

音楽は親御様の大好きな曲や、両親に当てたメッセージソングなど、その「想い」を表現します。
音響がその場を、様々に変化させられる場面なのです。

お色直し入場

~予定調和をサプライズに変化させるには~

後半のスタートです。
ドレスチェンジされた新郎新婦様が、再びゲストの前に姿を現します。
当然、最初の入場ほどの感動はない筈です。
既に「初めて」の感動は消化されてしまっています。
そこで、音響の選曲の見せ所です。
洋装から和装へ、またはその逆なら、世界観や自分たちがいる場所まで変わったかの様な錯覚を与えます。
司会者からは「装いも新たに新郎新婦の入場です!」と気の利いたコメントが発せられます。
ゲストの皆様の中には、最初の入場のイメージが植えつけられていることでしょう。
そのイメージを逆手にとって、いい意味での期待を裏切るのです。
最初の入場が洋装で「明るく楽しいBGM」で入られたのなら、今度は、「静かで厳かなBGM」をチョイスします。
逆ならそれに習います。
こうする事で「二度目」という意識を取り払うのです。
加えて、お色直し入場には、様々な演出が盛り込まれます。
キャンドルサービスなどの光の演出や、ブーケ・ブートニアセレモニーなどの挙式風入場。
ゲストの皆様を巻き込んだ催しも、流れに変化をもたらす効果があるのです。
それが、楽しい明るい演出なのか、はたまた厳かな演出なのかを見極め、それに見合ったBGMでアプローチします。
ラウンド中、数曲をご準備する事が有ります。
その時も曲の順番に注意を払います。
入場曲の次に来るのは、少し落ち着いた選曲を、そこから徐々に盛り上がるように曲を組みます。
ゲストのテーブルを回られた新郎新婦様は、改めてメインテーブルへ到着です。
その時メインテーブルのサイドには、メイン演出ステージが出来上がっています。
例えばキャンドルリレーなら、ひときわ大きなメインキャンドルが置かれています。
ゲストの皆様は今から何が行われるか、察しておられる事でしょう。
BGMも、そのまま同じ曲でメイン演出をしてしまっては、ますます感動は得られません。
サプライズとはいかないまでも「バレている」上で最大の効果を引き出します。
ここでも緊張のエネルギーを利用します。
BGMはおもむろにフェードアウトし、会場を静寂へと導きます。
キャンドルなら、会場は薄暗く無音の効果も絶大です。
この時、会場に無音であることを意識させてはいけません。
あくまでさり気なく、ゆっくりと音を消して行き、緊張感だけが、ただ高まって行く様に思わせる事が重要です。
そして、メイン演出です。
ここでもサビ出しのテクニックを使います。
解放させるには「ギャップ」が必要なのです。
燃え上がるキャンドルや、注がれる液体、手渡される花束。
どれを取っても、そこが最大の見せ場である事は一目瞭然と成ります。
披露宴で有効なテクニックのすべてが、その瞬間に注ぎ込まれるのです。

手紙

~言葉に音楽を寄り添わせ一つにする~

披露宴も終盤に差し掛かり、結びへ向かいます。
ご新婦様が、ご両親に感謝の思いをお伝えする感動の場面です。
乾杯で作り上げた今までのパーティーとは一変、セレモニーへと帰していきます。
厳かに、しっとりと、音響も変化させていくのですが、それが、取って付けたように成ってしまっては台無しです。
時には逆効果になることも有ります。
皆さんにも経験はないでしょうか?
楽しくふざけ合っていた友達が、急に真顔になり真面目な話をしようとする、そこで沸き起こる爆笑を。
こう成らない為に、手紙への伏線を作っておきます。
歓談中に流す曲の中から、比較的静かな曲を手紙前に挟みます。
こうする事で、手紙への自然な流れが生まれるのです。
いよいよ手紙を促すコメントを司会者が語ります。
「日頃の感謝の気持ちをお手紙にしてお持ち頂きました」
ここでたっぷり間をとる場合も多いのです。
「新婦様、お読みいただけますか?」あくまでも控えめなコメントです。
ここでの「間」は注目させる為でもなく、ましてや「エネルギー」をためる為でもありません。
動から静へ場面を展開されるために、必要な余白なのです。
この時、音楽は邪魔でしかありません。
司会者が作る「間」に無音で対応します。
そして、新婦様がいざ読み出そうとする少し前、その気持ちに寄り添うように、小さくBGMを加えます。
読み始められたら、さらにボリュームを下げ言葉の空間を作ります。
この時のBGMは「オルゴール」も多く選ばれます。
ご新婦さまの言葉を邪魔しない為に、インスト=オルゴールなのですが、時として、オルゴールの音は固く攻撃的になりがちです。
「ピアノ」や「ストリングスアレンジ」のものが音に丸みがあり、また、感情表現の幅も持っています。
ボリュームはかなり小さめに、煽りなどは必要ありません。
ご新婦様に寄り添う事、それが重要なのです。
手紙を聞かれているお母様・お父様の気持ちそのものなのです。
読み終わられたら、BGMを元の音量に戻します。
変化はごく僅かです、音量が上がったと気付かれないかも知れません、
しかしそれこそが重要な事なのです。
音響が何をしているかを気付かせてしまうという事は、音響の存在を意識させてしまった事に成ります。
存在は気付かれずとも、ゲストの心は確実に動かされています。

花束贈呈

~最大の感動は最大の冷静さで生まれる~

手紙の感動の中、新郎新婦様は花束を手にご両親の元へ進まれます。
今にも走り寄って抱きしめたい、そんな気持ちでいらっしゃる事でしょう。
皆さんは「花束贈呈シーン」に対して渡す瞬間をイメージされる事と思います。
しかし、それ以上に重要なのは、実は歩き出しから親御様の前に着くまでのアプローチです。
音響はあくまで冷静に、花束の曲を流すタイミングを伺います。
この感動への序章は、乾杯やケーキの時ほど容易くは有りません。
「盛り上がり」へのプロセスは、少々突発的で有ったとしてもゲストの心は付いてきます。
それが「感動」と成ると、見え透いた演出効果では気持ちは一気に冷めてしまいます。
曲を流すタイミングは司会者のコメントが肝となります。
「言葉では伝えきれない気持ちを花束に込めて、お進みいただきましょう」
このようなコメントの節目で「そっと」流します。
新郎新婦様が、ご両親の元へ近づくにつれ、さらに感動的な言葉が司会者から続きます。
BGMもそれに合わせて音量を少しずつ、少しずつ上げていきます。
そして、ご両親の前に着かれます。
もうご家族の感情は、はち切れんばかりに高まっている事でしょう。
この状況を作ってしまえば、後はこちらの思い通りの演出が可能となるのです。
贈呈時にサビ出しのテクニックを使う場合も良くあるパターンです。
その場合に注意したいのは、効果的な演出も、時として不自然な「演出過多」の印象に成ってしまうという事です。
何が起こっても感動させられる、この状況を作った事に自信があるのなら、これ見よがしな演出を敢えて避ける判断も必要です。
ベストなのは「サビ出しをしなくとも良きタイミングでサビが流れること」です。
一見、不可能なように感じるかも知れません。
会場の広さも違えば、新郎新婦様の歩かれるスピードも違う、正確な計算式などありません。
現場の音響はどのように合わせるのか?
事前に音楽のサビまでの時間を確認し、会場の広さを確認します。
そして、「入場」や「お色直し入場」での、新郎新婦様の歩くスピードを覚えておくのです。
そこに「経験」や「勘」が加われば、かなり近いところへタイミング合わせることが可能なのです。
必ずしも完璧に一致はしなくとも、感動できる状況が出来ていれば、大きな演出効果が生まれます。
この感動を与えられた時こそ、音響冥利に尽きる瞬間です。

退場

~日常に戻っても尚感動を継続させる~

両家代表の挨拶・新郎様の挨拶を終え披露宴のラストシーンです。
新郎新婦様が、会場を後にされ新たな旅立ちへと進まれます。
披露宴としては結びの意味があり、お二人にとってはスタートの意味があるこの時、どちらか一方の意味を強調した演出は良くありません。
披露宴の結びなら、節目としてのきっかけと終わりを示す事が必要ですし、お二人のスタートなら、明るく世界が開ける印象を持たせたいところです。
そこで、このダブルミーニングを音量の変化で作ります。
司会者が結びの時をアナウンスします。
「本日は誠におめでとうございます!」
そこにBGMが鳴り響きます。
晴れやかな曲が、お二人の幸せな未来を予感させます。
ここで新たなスタートである事の印象を与えます。
新郎新婦様、ご両家ご両親様が順に退場口に進まれます。
ゲストの皆様は、その日一番の拍手で祝福しています。
そして「退場されて終了」それだけではいけません。
退場された後の音響操作にこそ、退場曲の本当の意味があるのです。
いい音響は曲の消え際や、演出後の処理にも気をくばります。
扉が閉まったなら、少し時間を置いた後、ここでも少しずつ音量を下げ始めます。
司会者がコメントを言い出したからと言って、決して焦って急激に音量を下げては、ゲストは急に現実に引き戻され、それまでの感動が台無しです。
披露宴の終了、そして日常へ移行を和らげ、段階的に切り替える時間を作ります。

御披楽喜(おひらき)から送賓

~作り上げた非現実を現実にする~

披露宴は本当の最後の時を迎えます。
退場後に、その日の披露宴の模様を収めた映像が流れ、ゲストは余韻を味わっています。
まだ、終わらせたくない、さっきまでの披露宴が夢だったかのようにさえ感じている時です。
しかし会場の雰囲気は、業務的なものになりがちです。
後片付けの準備や必要な情報の説明、お客様への挨拶など、スタッフは動き始めます。
それに釣られるように、ゲストもまたご親族に挨拶をしたり、この後の予定の事で意識が途切れる瞬間です。
しかし「披露宴は最後のゲストが退出するまでが披露宴」であることを忘れては行けません。
意識が途切れる瞬間まで、最適なタイミングがあるのです。
送賓の準備が整うまでは、余韻をたっぷり味わう時間を演出します。
あえて退場曲を小さく流しておくのです。
まだ、披露宴の進行が続いているような錯覚を演出します。
ここでもやはり、曲が続いていることには気づかれないでしょう、
無意識でも曲が切り替わらない事で、ゲストには退場の印象が残ります。
送賓準備が整い、司会者から結びのコメントが発せられます。
「本日は誠にありがとうございました」
ここで送賓曲を少し大きめに、しかし演出にはならない程度に流します。
あくまで、場面転換のための音量なのです。
ここで初めて、ご披露宴会場はただの施設に、音響オペレーターはただの会場スタッフに戻るのです。
退場からこの瞬間まで、さほど時間は経っていませんが、余韻の時間と、日常へ移行を和らげる為の時間をたっぷり作っていれば、必然的に、そしてスムーズに切り替えることが出来ます。
演出によって築いた「特別な時間」が実は「日常の一部」であったと気付く瞬間です。

最後に

~正解がないと知る事が成功の秘訣~

ここで紹介したテクニックや意識は、あくまで、私の主観的な部分が多いかも知れません。
新郎新婦様の愛の形に「これが正解」がないように、音響のあり方にも「これが正解」などないのでしょう。
しかし音響という、披露宴においてあまり目立たない存在のスタッフでさえ、感動的で、一生心に残る披露宴を成功させるために、多くのことを考えています。
披露宴に携わる全てのスタッフも、同じように考え試行錯誤している事と思います。
ここで参考になったことが、たくさん有ったかと思います。
もしかしたら、参考にならなかったかも知れません。
あくまで一例です、あなたにしか出来ない最高の音響を目指して下さい。
それがあなたの音響演出にとって唯一の「正解」に成ると信じています。

ラグ エコーズ
取締役:酒井 泰臣